冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
明け方病院から家に帰ってきて、興奮している気持ちをどうにか鎮めながら、二人でベッドに潜り込んだ。
私は紬さんの鎖骨あたりに顔を乗せて、両手で紬さんの体に抱きついている。
そして、紬さんも私の体をしっかりと抱きしめて、緊張をほぐすように私のうなじを軽く揉んでくれる。
「瑠依は、知っていたのか? お父さんと彩也子さんが、その……」
私に気を遣っているのか、言いづらそうに呟く紬さんのその先の言葉、言われなくてもわかる。
私はくすりと小さく笑って、ほんの少し、視線を上げた。
「父さんはきっと、彩也子さんがいなきゃもっとだめになっていたと思う。社長でなく、会社員としてもうまく生きられなかったんじゃないかな」
「だろうな」
「おじい様に後継者として呼び戻された時、もちろんそれまでの生活が一変して大変だっただろうとは思うけど、母さんがそれを支えることができれば、違う結果になっていたんだと……」
父さんが次期社長としての運命を受け入れざるを得なくなった時、母さんはその現実から逃げることしかできなかった。
逃げることによって、愛していたはずの父さんと、自分の血を分けた娘である私を捨てなくてはいけないとわかっていても。
『私は社長と結婚したんじゃない』
母さんはそう言って離婚届にサインし、おじい様の家を出て行った。