冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
母さんには母さんの葛藤と悲しみ、そして娘を手放さなければならない苦しみがあったに違いないけれど、それでも父さんを支えて欲しかった。
母さんにベタぼれで、片時もそばを離れようとしなかった父さん。
社長になるという思いがけない展開をも、母さんの支えがあれば、うまく折り合いを付けられたのではないかと思うけれど。
母さんには父さんを支える気持ちも余裕もなく、父さん以上に気ままで自由な人生に固執していた彼女を、父さんの元に留まらせることは誰にもできなかった。
その後、人生に何の希望も持てなくなった父さんは、娘である私の存在だけでは上手に生きられず、社長職に就くこともできなかった。
「きっと、彩也子さんがずっと支えていて……。だから、子会社でどうにか仕事ができているんだと思う。彩也子さんがいなければ、父さんが今頃どうなっていたのかもわからない」
「彩也子さんは、瑠依の母親代わりでもあったんだろ?すごい女性だな」
「うん。すごい女性だし、私や父さんだけでなく葉月という大きな組織には必要不可欠な人」
彩也子さんに育てられ、しつけられたと言ってもおかしくないほど、今の私は彼女の影響を大きく受けている。
決して単純ではないこれまでの人生で、彩也子さんが私を幸せに導いてくれた力は言葉にできないほどだ。