冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



「瑠依の気持ちもわかるけど。彩也子さんがお父さんの側にいるってわかっていたから、瑠依は安心していられたんじゃないのか?」

「……どうだろう」

「もしも彩也子さんという存在がなければ、瑠依とお父さんはちゃんと協力し合って生きていたと思うけどな。
彩也子さんが二人の世話をしてくれることに甘えて、自分の苦しみにだけ向き合っていたんだ」

「甘えて……いたのかな」

「それが悪いわけじゃない。お父さんだって、彩也子さんが瑠依の世話をしてくれるから、瑠依の様子を気遣うこともなかった。
……お互いさまだな」

「だけど、父さんが心を壊している時、私は……」

「その時、瑠依はまだ小学生のガキだった。それに、誘拐未遂なんていう怖い思いもしたんだ。
何ができたわけでもない」

「ん……」

誘拐未遂という言葉に、私も紬さんも神経質に反応した。

だけど、紬さんに抱きしめられていると、普段感じる怖さもほとんど感じないから不思議だ。

私を絶対に守ってくれる、心からそう信じられる人が側にいるということは、これほど心を強くするものだと、改めて気づく。

「彩也子さんが瑠依とお父さんの世話をすることは必要なことだったのかもしれないけど、瑠依とお父さんとの間に距離も作ったんだ。
そのことに気づいたのは、茅人と瑠依の結婚の話が流れて俺に回ってきた頃だ。
ひたすら瑠依と瑠依の身辺を探ったからな」

「あ……茅人さん……」

忘れていたけど、私が紬さんとお見合いをする以前、水面下では私と茅人さんの結婚の話もあったらしい。

私を後継者問題から切り離すためだとか聞いたけれど、結局詳しいことは聞けないままだ。



< 289 / 350 >

この作品をシェア

pagetop