冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「な、瑠依の幸せな花嫁姿を、じいちゃんに見せてくれよ。紬くん、いい男だぞ」
「いい男って言われても……」
くしゃくしゃ、わしゃわしゃ。
相変わらず私の頭をかき回すおじい様の手は、頭だけでなく、私の心もかき回していた。
その時、部屋をノックする音がして振り返ると、初めて見る女性が顔を覗かせた。
「社長、そろそろ、時間ですが……」
硬い声で呟いた女性は、私に気付いて慌てて頭を下げた。
私よりも若いだろう女性と、おじい様を見比べていると、おじい様が笑顔を向けた。
「中村さんは初めてだったね。私の孫の瑠依だ。これからも顔を合わせる機会はあると思うが、よろしく頼むよ」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いします。あの、先週から社長の秘書をさせていただいております中村です」
小柄な体を深く折り、何度もお辞儀をする中村さんにくすりと笑った。
「葉月瑠依です。社長の秘書なんて、大変だろうけど、おじい様の事をよろしくお願いしますね。
……あれ?今日、国見さんは、お休みなの?」
ふと呟き視線を上げると、おじい様が厳しい表情を浮かべ、口をきゅっと結んだ。