冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
慌てたように私の顔を覗き込み、おろおろしている。
「何もかも、黙っていて悪かった。さっき、俺の目を見ないでベッドから出ていく瑠依を見た時、俺は嫌われたのかとぞっとしたんだぞ」
「え?」
思いがけない言葉に、私は驚いて、ひたすら紬さんを見つめ返した。
私が落ち込む理由を誤解しているようだ。
それに、ベッドから出ていく私って……確かにちょっと落ち込んでいたけど、紬さんがそれほど気にするとは思わなかった。
「瑠依が俺との結婚に戸惑っているのはわかっていた。
だけど、早く江坂の籍に入れて俺のものにしたかったし、第一、俺は瑠依に惚れすぎてこれ以上待てなかったんだ。
一年が限度だった。事実を知らせるべきだってわかっていたけど、結婚式が終わって、瑠依が俺を愛するようになって、俺から離れられなくなった時に言おうと思っていたんだ」
「そ、そうだった……んだ」
「茅人が夕べ事実をぶちまけやがって焦ったけど……大丈夫だよな? 離婚なんて考えてないよな?」
「り、離婚?」
「ああ。今だって考え込んでいたし、やっぱり茅人のことを聞いて、ショックだったか?
それに、俺と結婚してしまったこと、後悔していたり……」
「するわけない」
「え?」
「紬さんとの結婚を後悔するわけない」
弱々しい声と、不安げな表情を隠そうともしない紬さんに、強い口調でそう言った。