冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う


「私、たとえおじい様に乞われても、嫌々結婚なんてしない。紬さんとのことも、最後には自分の意志で決めたのに……それに、茅人さんとか修さんのことを気にし過ぎだと思うんだけど」

「そ、そうか……いや、だけど、今だって何か考え込んでるし俺が黙っていたことを許せないんじゃないかと……」

おろおろと言葉を詰まらせる紬さんからは、これまで私に真実を隠していたことを後悔する気持ちが強く感じられる。

「紬さんを許せなくて考え込んでいたわけじゃない。……父さんを怪我させた犯人の中に国見さんがいたから……」

「国見?」

「うん、長い間おじい様の秘書だった人だけど……っていうか、そのことはもういいの」

国見さんのことを知らない紬さんが、私が考え込む様子を見て不安になるのは当然なのかもしれない。

ただでさえ、これまで重ねていた嘘に罪悪感と後悔を抱えているのだから、私が黙り込むだけで神経質になって、心細くて……。

そんな紬さんに、私は小さく笑ってみせた。

「だけど、瑠依、国見さんって一体」

「いいの。昨日からずっと、『本当のこと告白します大会』みたいで……疲れちゃったし」

「そ、そうだな、突然何もかもを教えられたんだ、瑠依も疲れるよな。
だけど、これだけはわかって欲しい、俺が瑠依を愛していて、瑠依も俺のことを……あれ? 瑠依も……俺のこと……」

不意に、紬さんが私の顔を覗き込んだ。

今日何度も見せられた瞳の揺れ。

私が思っていたよりも、紬さんの中にある弱さはわかりやすい。

私が感じていた不安と同じくらいに、紬さんも不安なようだ。



< 312 / 350 >

この作品をシェア

pagetop