冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
私の気持ちを察したのか、紬さんはすぐにその言葉を落としてくれた。
「愛してる。愛してる。一目ぼれだって言っただろ? 茅人から俺に見合いの話が回ってきてすぐに瑠依をこっそり見に行ったって言っただろ?
会社から出てきた瑠依が、周囲を見回してほっとしたように表情を緩めたあの顔……あれにやられた」
「あ……」
私は、はっとして、紬さんを見つめた。
「瑠依は、まだ誘拐された時のことが忘れられないって、気付くのは簡単だった。
おまけに見た目が俺の好みどストライクの女を守ってやりたいって、それがきっかけ。
まあ、俺はあの日瑠依に骨抜きにされたってことだ」
思い返すような紬さんの声に、目の奥が熱くなる。
今でもそうだけど、仕事を終えて会社を出る時や電車に乗る時。
人ごみの中に一人でいる時。
誰かが私をさらっていくんじゃないかと、突然不安に襲われることがある。
幼い頃のように連れ去られるかもしれないと、悲しい妄想に囚われる。
紬さんが見たというのもきっと、会社という安全地帯から外に出る時の不安定な私の姿だろう。
今では誘拐される可能性は低いとわかっているとはいっても、幼い頃に味わった恐怖が私の体から完全に抜けきることはない。
「瑠依を愛してる。守りたいし幸せにしたい。それに、俺も、幸せになりたい」
「紬さん……」
「ってことで、我慢なんてしない、瑠依を存分に抱くから」
寝室に入り、昨夜の乱れがまだ残るベッドに私をおろした紬さんは、私の横に体を滑らせた。