冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「ホテルへの持ち込みは大丈夫なのか?」
「え?」
「明日の結婚式に必要な物はホテルに全部持って行ったのか?」
「あ、うん。大丈夫。先週のうちに彩也子さんが完了させてくれたから」
「だったら。もしも瑠依がお父さんの側についていたいなら、俺ひとりでホテルに行くから。
打ち合わせっていっても、出席者のリストの最終確認くらいだし、俺ひとりでも大丈夫だぞ」
父さんがいる病院に着いてシートベルトを外している私に紬さんは気をつかってくれた。
「大丈夫。父さんには彩也子さんがついているから、それで十分だよ」
「だけど、瑠依もお父さんと一緒にいたいだろ?」
「うーん。一緒にいたくないわけじゃないけど。……なんだか照れくさいし、何を話せばいいのかわかんないし」
「そうか……。昨日の今日で素直になれるわけでもないか」
「……ま、まあね」
「だけど、お父さんが瑠依のことを大切に思っているのがわかっただけでも良かったな」
「うん。それは、確かに嬉しいけど、大けがしちゃってかわいそうだよね……」
父さんはひっそりと生きていただけで、他人に迷惑をかけたわけじゃないのに。
身勝手な悪意によって大けがをさせられた。
「もしかしたら、命だって落としていたかもしれない」
ぽつりと呟いた自分の言葉に、自分が傷ついた。