冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
そう、もしかしたら父さんは今頃……そう思うと体はぞくりと震える。
俯き、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
すると、まるで、私の気持ちを鎮めるように、紬さんの手が私の手の上に置かれる。
今朝、私の体を好きなように這っていた熱い手と同じだとは思えない、じんわりと染み入るような温かい手。
指先がトントンと私の手の甲をリズム良く弾き、規則的なその動きが私の気持ちを落ち着かせてくれる。
そんな私の心を感じたのか、紬さんは優しく呟いた。
「国見さん。が助けてくれたんだろ? 社長秘書だった彼の機転のおかげで、お父さんは骨折程度で済んだ」
「ど、どうしてそれを……」
そのことを、紬さんに言った覚えはないのに、どうして知っているんだろう。
紬さんは、私の気持ちを読み取ったのか、ふふん、と笑う。
「俺の情報網を甘くみるなよ。江坂グループのトップに立とうとしているんだ、一晩あれば大抵のことはわかる」
「へ、へえ……」
「おじい様の忠実な秘書だった国見さんは、常務のもとに身を移して情報を収集していたんだな。
そして、身を挺して、おまけに警察に逮捕されることもいとわず、瑠依のお父さんを守った。
お父さん……両足の骨折くらいで済んで、良かったな」
「あ……うん。良かった……」