冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




通常の異動なら、そういうことも考慮されるはずなのに、どうしていきなり?

おじい様だって、何かすっきりしない様子だし。

国見さんと喧嘩……くらいで手放すとも思えないし。

「じゃ、じいちゃんは出かけるけど、くれぐれも、紬くんと仲良くするんだぞ。あんないい男が瑠依の旦那さんなら、ひ孫だってかわいいだろうな。うん、楽しみだ」

考え込んでいた私におじい様は声をかけ、足早に部屋を出て行こうとしている。

きっと、今日も他社の社長さんとの会食だろう。

凛とした後ろ姿は昔から変わらないけれど、決して若くはない。

いつまでおじい様はこうして忙しい毎日を送らなければならないのだろう。

そう思いながら、そんな生活から逃げ出した父さんのことを考える。

父さんがおじい様の後継者として会社を背負えるほど、強い人であったならば、おじい様だって毎日ここまで忙しく過ごすこともないだろうし。

とっくに社長の座を退いて、ゆっくりとした日々を過ごしているはずなのに。

ひ孫と一緒に散歩をしたり、趣味の絵を描いたり。

「え……ひ孫?」


< 32 / 350 >

この作品をシェア

pagetop