冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



『愛してる』

と伝えられてからまだ一日も経っていないのに、更に私を喜ばせてくれる紬さんのせいで、身体中が嬉しさで震える。

ここは父さんが大けがをして入院している病院の駐車場で、誰かが今にも姿を現しそうなのに。

こんなに幸せでいいのだろうか。

朝から流れている多くのテレビ番組では、父さんの事故と合わせて、葉月家の後継者問題が特集されている。

これまでも何度かマスコミでは取り上げられてきたけれど、具体的に内部の争いが表に出るのは初めてかもしれない。

父さんが後継者候補から外れたことや、私の江坂家の後継者との結婚が決まったことを含めて、もちろん常務が画策した事故も、詳細に。

これまで長期で取材をしていたのだろうとわかるほどの内容量に、テレビの前から離れることができなかった。

葉月グループがこれからどうなっていくのかはわからないけれど、紬さんのお父様が「江坂グループは葉月グループとの関係強化に一層努める」という声明を出したと伝えるキャスターの言葉に、紬さんはテレビの前で大きく頷いていた。

そして、葉月と江坂の絆のきっかけとなっているおじい様たちの初恋のことも、美談として放送されていた。

『あの二人、初恋のことなんて、すっかり忘れていたくせに』

呆れる紬さんに、私も苦笑した。



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