冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



そんな、葉月家始まって以来の騒動の渦中で、私は今、生まれてから一番幸せな時を過ごしている。

愛している、一生離れたくない、心から思える大切な人の腕の中で、愛情に満たされて。

父さんやおじい様、そして葉月グループで働いている社員の方たちには申し訳ないけれど、私は今、とても幸せだ。

「まじで、浮気なんてするなよ。そんなことしても、絶対に手放さないし」

相変わらず、私が浮気をするなんてあり得ない未来を心配して不安いっぱいの言葉を並べる紬さんの呟きは続いているけれど。

それすら私を優しい思いで満たす。

父さんの病室に早く顔を出して、怪我の具合をもう一度確認したいし、そのあと結婚式の打ち合わせにも行かなければならない。

それに、世間を騒がせている葉月家とどう向き合っていくのかをおじい様とも、父さんとも、そして彩也子さんとも相談しなければならない。

もちろん、私達だけで処理できるわけではなく、確実に警察からの指示だってある。

そんなことを考えると、心はずんと重くなり、逃げ出したくなる……はずなんだけど。

自分の身に起きている不安な出来事よりも、これからの時間を、愛されたい人から愛されて生きていける自分の幸せを実感しては顔が緩んでしまう。

そんな自分は冷たい人間で、大切な感情が欠如しているのではないかと思う。



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