冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「それ、本当なの?」
「本当よ。絵をやめさせられて、葉月グループの後継者として呼び戻された時にはどうなることかと思ったけど。
そのプレッシャーから解放されて、一人の社員として仕事と向き合ったあとは、ひたすら努力を続けてきたのよ」
「……そうなんだ」
父さんが会社でどんな立ち位置で仕事をしているのかを、彩也子さんが簡単に説明してくれたけれど、私が想像していた状況とはかなり違い、戸惑ってしまう。
絵を描く以外のことで父さんが周囲から認められるなんて信じられないけれど、病室にいる父さんの同僚の方々の数を見れば信じないわけにはいかない。
どの人も父さんの容体を聞いて、ほっと安堵の表情を見せている。
ベッドの上に体を起こし、申し訳なさそうに何度も頭を下げている父さんの表情はとても明るくて、こうして大勢の人がお見舞いにきてくれたことが、本当に嬉しいようだ。
何を話しているのかはっきりとはわからないけれど、普段から親しい付き合いをしているとわかる軽い口調のやり取り。
その様子を見るだけで、父さんが会社で穏やかな毎日を送っているとわかる。
「父さん……笑ってる」
ただ笑っているだけじゃない。
たくさんの人たちとの会話を楽しんでいるのがわかる。
私がおじい様のもとで暮らし始めて以来、見せられたことのない自然な笑顔で会話を楽しんでいる。