冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
実の娘なのに、父さんの現状に拗ねたような思いしか持てない自分が嫌になる。
入口に立ち尽くしたまま父さんに声をかけられずにいると、紬さんは私の肩を抱き寄せた。
「知らなければ、これから知っていけばいいだろ? お父さんは生きているんだから、気持ちひとつでどうとでもなるさ」
「簡単に言うけど」
「簡単だろ? 俺達だって気持ちを伝えて抱き合った時の幸せは半端なもんじゃなかっただろ? それに、今までだったら考えられないほど幸せなんだからさ」
「え……だ、抱き合った時って、そ、そんなことを今ここで言わないでよ」
恥ずかしすぎる言葉を並べられて、私は慌てて紬さんの胸を叩いた。
昨夜、甘い甘い時間を過ごしたばかりだとはいえ、まさか父さんの病室でその甘さを出すなんて思わなかった。
けれど、紬さんは大したことでもないように肩をすくめるだけ。
「気持ちを伝え合うってのは、いいな。俺、瑠依が本当に俺のものになったって実感して、止まらなかったもんな」
「ま、またそんなこと言って……」
「俺のものじゃないのか?」
「い、いや、そんなわけではないけど、ね」
紬さんに覗き込まれた私の顔はきっと、赤らんでいるはずだ。