冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
簡単にそれが想像できて、さらに顔に熱が集中するのを感じていると。
「瑠依が、誰のものだって?」
低い声が病室に響いた。
はっと顔を上げると、今までお見舞いに来た人たちと談笑していた父さんが、厳しい目で私たちを睨んでいた。
私たちを、というよりも紬さんを睨んでいると思うのは気のせいだろうか?
「瑠依を嫁に出すことは許すが、瑠依が俺の娘であることに変わりはない」
「父さん、何を……」
「紬くんに瑠依を託すことは認めたが、瑠依はこの先も俺のものだ」
「俺の……」
「紬くんがどれだけ瑠依を大切にしたとしても、父親の愛情に敵うものか」
頭に包帯がグルグルと巻かれ、顔にも傷が生々しく残っている父さんの鋭い声。
けれど、唇をとがらせて視線をぷいっとそらすなんて、まるで子供みたいだ。
お見舞いに来ている会社の人たちも、そんな父さんに驚き、黙り込んでいる。
すると、紬さんは私の背中にそっと手を置き、私を押しやるように父さんのベッドへと向かった。
「昨日もご挨拶させていただきましたが、瑠依の夫の江坂紬です」
ベッドの傍らに立ち、紬さんは深いお辞儀をした。
つられて、私も頭を下げる。