冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「この結婚にお父さんが賛成してくださったことは、瑠依のおじい様から聞いています。
瑠依が小さな頃に味わった、悲しい出来事も、知っています」
「紬さん……?」
突然話し出した紬さんを見ると、紬さんは私がそれ以上何も言わないよう、視線で制した。
そして、話を続ける。
「お父さんが、瑠依と一緒に暮らしたくても自分の人生を立て直すのに精いっぱいで、そして誘拐までされかけた瑠依の安全を第一に考えて、それができなかったと、それを悔やんでいるとも聞いています。
だから、これからは思う存分瑠依を大切にしてください。
今ではもう結婚して、江坂瑠依になりましたが、お父さんの娘であることに変わりはないんです」
相変わらず視線を合わせようとしない父さんに、紬さんはゆっくりと気持ちを伝えてくれる。
その真摯な様子に、私の方がぐっと気持ちが揺れる。
けれど、今、紬さんが口にした言葉のほとんどは、初めて聞かされることばかりで、驚きの方が大きい。
私を手放し、おじい様に預けた理由やそれを後悔しているなんて初めて聞いた。
理由については察することもあったけれど、それについては特に何も感じていないと思っていた。
まさか後悔しているなんて、ちらりとでも考えたことはなかった。
今でもまだ半信半疑だけれど、ベッドの上で黙り込み真剣な表情で紬さんを睨んでいる父さんを見れば、紬さんが言ったことはその通りだとわかる。
紬さんは、と言えば。
父さんと話ができたことにほっとしたような、落ち着いた様子を見せている。