冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
昨日簡単な挨拶をしたとはいっても、麻酔から醒めたばかりの父さんがそのことをはっきりと覚えているかはわからない。
こうして再び父さんと言葉を交わせることを喜んでいるのもわかる。
紬さんは、父さんと会って挨拶をしたいと言っていたけれど、私の複雑な思いを受け止めて、無理に事を進めようとはしなかった。
私は、決して父さんを嫌いではないけれど、私をおじい様に預けたまま長い年月を過ごすことを選んだ父さんに、素直になれないでいた。
けれど、事故に遭い病院に運ばれたと聞いた瞬間そんな過去の自分を後悔し、素直に父さんと向き合っていれば良かったと、心から思った。
きっと、紬さんはそんな私の後悔にも気づいているはずだ。
「瑠依だって、これからお父さんと……そして、彩也子さんとの時間を楽しみにしているはずです」
「紬さんっ」
彩也子さんの名前を出した紬さんに驚き、声をあげてしまう。
「お互い、新婚、ということになるのでしょうか?」
紬さんは、からかうように父さんと彩也子さんを交互に見ながらくすりと笑った。
すると、それまで穏やかに私たちのやり取りを聞いていた彩也子さんがぽっと顔を赤らめて俯いた。
俯きながらもちらりと父さんに視線を向ける様子からはかなり照れているとわかり、私もつられて照れてしまう。