冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
ところが。
今こうして私と紬さんは愛し合い、結婚できたことに心から感謝している。
「おじい様、もう少し顔を上げて下さい」
「新郎は新婦に近づきすぎです。お衣装にしわが入りますのでもう少し離れて下さい」
「後列の方々、お話はやめてカメラを見て下さい」
親族写真を撮る為に大勢が集まったホテル内の写真室はざわついていて、カメラマンさんも大変だ。
江坂家と葉月家という、国内屈指の企業グループの親戚一同が顔を合わせるのだから、それなりに心構えはしていたようだけれど、ニュース番組や新聞の一面で見る顔ぶれを目の前にして慌てているようだ。
披露宴までそれほどの時間は残されていないのに、大丈夫だろうか。
私と紬さんは最前列の中央に並んで座り、親戚の皆様の段取りが整うのを待っているけれど、その間も紬さんは私との距離を詰めてくる。
「今もカメラマンさんに注意されたでしょ? もう少し離れないと白無垢が綺麗に映らないよ」
小さな声で注意しても、紬さんには伝わらないようだ。
「せっかくの記念写真なのに、なんで瑠依と寄り添えないんだ? 衣装のしわなんて、目立たないから、瑠依ももう少しこっちに寄れよ」
「ちょっと、紬さん……」
カメラマンさんから座る位置を指示されたというのに、紬さんはそんなのお構いなしに私を引き寄せる。