冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
それまで衣装であれティアラやベールであれ、何に対しても「紬さんが決めてくれたらいいし」と言って何も興味を示さなかった私が突然言ったその言葉に周囲は驚いていた。
私が選んだ角隠しは、手の込んだ模様が浮かび上がっているだけあって、並べられた中では一番高いもので、レンタルではなく買い取り。
それも、かなりのお値段。
一度きりの物にそこまでの金額をかけていいものかと一瞬悩んだけれど、それでもあきらめることはできなかった。
そして、その角隠しを身に着けての式を終えての親族写真撮影。
絶対に綺麗に撮ってもらおうとそわそわしていたのに。
「角隠しだけは綺麗なまま撮ってもらうから。触らないでね」
相変わらず私を抱き寄せようとしている紬さんに言った。
「……触るなって言われたら触りたいんだけど」
「だめっ。この角隠しのために式を挙げたようなものだから、絶対に触らないで」
「……単なる布なのに」
不機嫌な声で呟いた紬さんだけど、結局は、私に弱い。
優しい指先で角隠しをそっと撫でながら、位置を整えてくれた。