冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
強く甘く近く




お見合いから5日経ち、毎日届くおじい様からの「紬くんとデートはしないのか?」というメールにうんざりしながら迎えた金曜日。

残業することなく会社を出た私は、ある場所へ向かった。

タクシーに乗り、行先を告げたあと、鞄からスマートフォンを取り出す。

メール画面を呼び出して、夕べ届いた内容を確認した。

差出人は『江坂紬』

『とっとと結婚の段取りを詰めよう。明日なら時間を作れるから、会社まで来てくれ。
おやじも会いたいって言ってるから、逃げるなよ』

何度読み返しても「お願いする」や「もしお時間があれば」なんていう、おうかがいの言葉は見当たらない。

紬さんは、このメール一つで私がいそいそと駆けつけるとでも思い込んでいるらしい。

結婚の段取りを詰めるどころか、私がまだ結婚を承諾していないということは彼には大したことではないんだろうか。

お見合いの席で、はっきりと断ったはずなのに私の言葉は無視ですか。

あの場に飛び込んできた女性……理美さんだったかな。

彼女とはその後どうなったんだろう。



< 34 / 350 >

この作品をシェア

pagetop