冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
突然私を抱きしめてキスするなんて、よっぽど周囲の目を気にしていないのか、それとも単なるお調子者なのか。
紬さんのあの日の行動を思い出しては唸ってしまう。
それにしても、一流ホテルのロビーにいたたくさんのお客様が呆然と私たちを見ていたというのに、紬さんは私の体を離そうとせず、ずっと抱きしめていた。
私は紬さんのものだとでもいうように、私の反抗なんてものともせず、何を言っても聞く耳を持たず。
そんなところはおじい様に似ているかも。
おじい様のお気に入りで、そしておじい様の初恋の人の血を受け継いでいる紬さん。
果たして、彼は私と本当に結婚したいのだろうか。
紬さんのおばあ様に強制されてお見合いの場に来たことは確かだけれど、どうして今になって結婚を進めようとしているのかわからない。
彼のあの強気な性格からすれば、おばあ様の頼みだとは言っても嫌なら断るはずだろうし、今すぐ結婚する気はないと言っていたのに。
その急激な変化の理由が気になって仕方がない。
……確かに、見た目は私好みだけど。
座席に体を預け、流れる景色をぼんやりと見ながらそんなことを思いつつ、紬さんとこうして会うことが決して嫌ではないと。
悔しいながらも感じていた。