冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
タクシーを降り目の前の大きなビルを見上げる。
紬さんが働いている会社の名前は誰でも知っているほど有名で、この大きな建物を見てもそれは明らかだけれど、そうでなくても紬さんがここにいるんだと思うと、妙に落ち着かない。
そして、もうすぐ会うと思うと、更にそわそわしてしまう。
落ち着かない自分をどうにか鎮め、深呼吸をする。
30階建てくらいだろうか、かなり高い建物にゆっくり足を踏み入れると、自動ドアの向こうにある受付が目に入った。
既に終業時間を過ぎているせいか、受付には誰もいなくてどうしようかと戸惑う。
茶色でまとめられているロビーを見回していると、少し離れた場所にあるエレベーターがチンと音を立てて扉が開いた。
その音に反応するように振り返ると、背の高い女性が降りてきた。
その女性は、私と目が合うと、はっとしたように近づいてくる。
グレーのタイトスカートと白いブラウスシャツの彼女は、私から視線を外すことなく歩を進めると、私の目の前で立ち止まった。