冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



「あの、葉月瑠依さんですか?」

「は、はい、葉月です」

にっこりと笑顔を向けて私の名前を言う彼女に慌てて頭を下げた。

肩までのボブがとても似合っている彼女は、私の焦る様子にくすりと笑うと

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。江坂くんが上で待ちくたびれていますから、どうぞ」

優しくエレベーターの方へ促してくれた。

「あ、えっと、江坂くんってあの」

「あら?今日は江坂くんとお約束なんですよね?江坂紬」

「は、はい、そうです。紬さんです。紬さんと約束しているというか、無理矢理っていうか……」

決して約束を交わしたわけでなく紬さんの都合だけでここに呼び出されたと口にしそうになったけれど、ぐっと堪えた。

目の前の女性にそれを言ったとしても、混乱させるだけだろう。

そう思って曖昧に笑ってみせると、私の気持ちはわかっているとでもいうように彼女も笑顔を返してくれた。



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