冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




休む間もなく続く彼女の勢いある言葉に何も言い返せないでいると、エレベーターは25階に到着した。

「江坂くん自らロビーにお迎えに行こうとしていたんだけど、それって葉月さんを社内の女の子からの敵意に一気にさらすことになるから。用心のために、私が代わりに行ったの。それに、私には、江坂くんよりも素敵な、ちゃんと大切な人がいるから心配しないでね」

ふふっと笑った彼女は、照れくさそうに肩をすくめた。

ほんの少しでも、私の中に紬さんと彼女の関係を疑う気持ちがあったことを見抜いたんだろう。

私が小さく頷くと、安心したように目を細めた。

「このフロアに社長室があるのよ。あ、今更だけど私は社長秘書の中津です。この奥にいるから何かあれば声をかけてね。あとでコーヒーを持って社長と江坂くんのデレデレな顔を拝みに行くわね」

コツコツとハイヒールを鳴らし、足早に歩く背中は少し震えている。

笑っているに違いないと思いながら、私もその後ろを歩いた。

しんと静まり返るフロアに少し緊張しながら、ソファが並べられたロビーを通り抜けると。

廊下の左右に幾つかのドアが並んでいた。

社長秘書だという中津さんは、迷うことなく一つのドアの前に立ち私を振りかえった。

私が恐々と近づき隣に立つと、中津さんは私を安心させるように頷き、小さな声で囁いた。

「江坂くんね、葉月さんと会う時間を捻出するためにお昼も食べずに仕事をこなしていたのよ。だから、夕食くらい付き合ってあげてね」

「え?」

中津さんの言葉にはっと視線を上げた私に、彼女は意味ありげに首を傾げた。



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