冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




「同期の間では有名な話をひとつ教えてあげる。江坂くんね、ステーキよりもハンバーグが大好きなおこちゃまなのよ」

本人はそれが恥ずかしいみたいだけどね、と付け加えると、彼女は私の答えを待つでもなくドアをノックし勢いよくドアを開けた。

「社長、葉月瑠依さんの登場ですよー」

言うが早いか、彼女は私の背中に手を当てると、勢いよく社長室に押し込んだ。

「あ、あ、中津さん……」

私はその勢いに思わず足元がよろけ、バランスを崩して倒れそうになる。

何かを掴もうと両手をばたばたしながら伸ばした途端、私の腕を誰かがぐっと掴み引き寄せてくれた。

その反動はかなりのもので、私の体は何かにぱふっと取り込まれる。

体全体が何かにぶつかり、跳ね返りそうになる私を抱え込むような温かい何かに包まれて。

何故かほっと感じていると。

「着物よりも、服の方が抱き心地がいいな」

耳元に、くすぐったい言葉が落とされた。

「つ、紬さん」

倒れそうになった私を抱きとめてくれたのは紬さんだった。



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