冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
紬さんよりもほんの少し小柄だけど、肩幅が広くてスーツ姿がしっくりと似合う男性。
少しずつ私に近づいてくるその男性の顔は、紬さんによく似ている。
すっきりとした顎のラインや切れ長で意志の強そうな目を見れば、二人が親子だとすぐにわかる。
緊張している私の体を包んでいた紬さんは、そっとその腕をほどくと私の背後に立ち腰に手を回した。
普段ならその腕をほどいて離れるようとするけれど、この場の展開に戸惑う気持ちが強くて何もできない。
「写真で見るより、実物の方が何倍も綺麗だね。あの頑固なおじいさんに可愛がられているってすぐにわかるよ。何度か、小さな頃の写真も見せてもらったんだよ」
「あの、私は……」
「葉月瑠依ちゃん、いや、もう瑠依さんと呼ぶ方がしっくりくるねー。
妻の潤子さんも会うのを楽しみにしていたんだけど、近所の高校生にお茶を教えているんだよ。彼女の凛とした和服姿は本当にきれいで見ていて飽きないほどで……いや。
今日は来られないけど、瑠依ちゃんと会えるのを楽しみにしているから、いつでもうちにおいで」
「は、はい……ありがとうございます」
そう言いながらも、突然かけられた言葉の意味がよく理解できなくて紬さんを振り返った。