冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
その言葉にお父さんがどんな反応をしたのかはわからない。
紬さんの声は相変わらず低いし機嫌が悪いとすぐにわかるものだけど、それでもお父さんを気遣った言葉だったというのはわかる。
紬さんの整った顔も耳も、ほんの少し赤い。
なんのかんの言っても、結局はお父さんと仲がいいってことだ。
ふふっ。かわいいなあ、素直になればいいのに。
相変わらず私の腕を掴んだままずんずん歩く紬さんを見上げると。
紬さんは「な、なんだよ……」と照れくさそうに呟いた。
「別に?」
くすりと笑った私を睨む視線も怖くないし、思っていたよりも、悪い人ではないようだ。
強引なところは第一印象通りだけど、意外に優しい照れ屋さんなのかもしれない。
ただでさえ私好みの見た目で性格も悪くないとなれば、気持ちが傾きそうで困る。
けれど、親同士が、というよりおじい様たちが画策した縁というだけで、お互いに愛情を持っていない私たちが結婚するわけにはいかない。
第一、この間のお見合いで目にした紬さんと恋人らしき理美さんとの言い争いを忘れたわけじゃないし。
たとえ私の好みど真ん中の見た目でも、それだけで紬さんと結婚することはできない。
それなのに、当の紬さんは私との結婚話を進めるような発言を続けているし、お父さんにも紹介するし。
この流れが全く理解できなくて、私は振り回されるばかり。