冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
エレベーターの前に着き、下りのボタンを押した紬さんはほっと息を吐いて私に視線を向けた。
「ん?何?」
紬さんを見ていた私の視線は、紬さんのそれと絡み合う。
どう気持ちを告げればいいのだろうかと考えながら、私はどうにか口を開いた。
「紬さん、結婚の話なんですけど、私は同意した覚えはない……」
「あ、結婚だけど、瑠依のおじい様がホテルを既に押さえていて準備も着々と進んでるらしいぞ。
よっぽど瑠依の花嫁姿が楽しみなんだな」
「は?ホテルって……そんなこと何も聞いてない」
「うちのおばあも結婚式に備えてエステに通い始めたんだよな。当日、初恋の人に綺麗な自分を見せたいって言って気合十分。かわいいよな」
「そんなあ。私に何も言わずにどうして勝手に進めるのよ」
私は紬さんから聞かされたことにうんざりし、肩を落とした。
おじい様の強引さには慣れているけれど、今回ばかりは予想外過ぎてどうしていいのかわからない。
いたずらに成功した男の子のように笑うおじい様の顔が簡単に想像できて、更に落ち込む。
その時、チン、という音が響き、エレベーターの扉が開いた。