冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
紬さんは相変わらず私の腕を掴んだまま、ひっぱるようにエレベーターに私を乗せた。
「紬さん、今更ですけど、私には結婚する気持ちは……」
ないんですけど。
そう言おうとした言葉にかぶせるように、紬さんの声が狭いエレベーターに響いた。
「あ、瑠依のお父さんは結婚式には欠席だって瑠依のおじい様から聞いたけど、俺からもちゃんと挨拶したいし、お父さんの都合はどうだろう?」
「も、もう、勝手に……どんどん話を進めないでよ」
自分でもわかるほどの弱々しい声。
おじい様をはじめ、周囲から見せられる結婚に向けての強引さが私を追いつめていく。
何度も口にしているのに、私が結婚したくないという気持ちを汲んでくれる人なんてどこにもいない。
今朝だって、おじい様に電話をしてやっぱり結婚は無理だと言った途端「男前の紬くんと話し合っておいで」と言われ電話は切られた。
何かと私を可愛がってくれるお手伝いさんの美香子さんだって「最初からダメだと思わずに相手を知ってから答えを出してもいいと思いますよ」とあっさり言うし。