冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う





紬さんの会社を出た私たちは、そのまま駅へ向かって歩いた。

『手を繋ぐか?』

『肩を抱こうか?』

ふざけたことを言ってはくすくす笑う紬さんの半歩後ろを、私は急ぎ足でついて歩く。

私をからかっているとわかる言葉を無視していると、「今は手を繋ぎたい気分だな」と、紬さんは私の手を取った。

あっという間につながれた私たちの手を、紬さんに気付かれないように横目で見ると、その温かさに妙にほっとした。

ほっとしたことに抗うように気持ちを引き締めるけれど、どうもうまくいかない。

「ちょっと急ぐからな」

歩みを速める紬さんに引きずられるように歩きながら、口では「ちょっと、待ってよ」と言ってみるものの。

『急いでるから仕方ない』と言い訳をするように自分を納得させ、その手を握り返す。

心が弾むように思うのは、気のせいだ。

「大学時代からの友達の店なんだけど、それ抜きにしてもうまいから、期待してろよ」

紬さんの言葉に大きく頷いた。

「えー、ほんとにー?」

と、気乗りしない風を装いながら。

とは言っても、嬉しそうに笑った紬さんのことだから、私の気持ちは読まれているような、気もした。



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