冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




普段同様すっきりとした輪郭にバランスよく配置された目には艶めいた光も感じる。

相変わらず男前だな。

電車を降りてからは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれるし、混み合う電車の中では自分が盾になって私を守ってくれた。

やることも男前だ……なんて。

紬さんに気持ちを傾け過ぎちゃだめなのに。

周りからのお膳立てがあるとはいってもそれは私達の気持ちが一切考慮されていない、いわゆる政略結婚。

たとえ私が少しずつでも紬さんを好きになったとして、そして結婚しても。

幸せになれないことは明らかだ。

あまり距離を詰めないようにしなければならない。

今なら「憧れ」だけで済ませられるはずだから、周りを傷つけない程度のほどほどの距離を保っていこう。

紬さんにしても、今は「嫁に来い」だとか「結婚する」と言っているけれど、それが彼の本意ではないはずだ。

だから、落ち着いて話せばわかってくれるはず。

私一人が紬さんに好意を持ったまま結婚の話が進むような悲しい展開だけは避けたい。

今日は、そんな気持ちをちゃんと伝えたくて、紬さんと会うことにしたのだから。

たとえ隣にいる紬さんがどれほど素敵に見えて、私の気持ちがバクバク落ち着かなくても。

結婚の話は白紙にしてもらおう。



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