冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




おじい様の初恋を成就させてあげられないことは残念だけど、受け入れることはできない。

ただ、もしも私に結婚願望がなく、この先一人で生きていくつもりだったなら状況は違ったのかもしれない。

結婚になんの夢も持たず、一生するつもりがなかったならば。

紬さんのような条件のいい男性と結婚するだけでおじい様が幸せになるのならと受け入れたのかもしれない。

そう、結婚して幸せになりたいと思っていなければ、紬さんとの結婚話を進めてそれなりの未来を得たかもしれない。

そして、若い頃思うように恋愛ができなかったおじい様の切なさを和らげてあげるけれど。

私は、愛する人に愛されて、幸せな結婚生活を送りたい。

スタート地点が政略結婚だとしても、愛があふれる家庭を築いて笑っていたいから、やっぱり紬さんとは結婚できない。

私が今紬さんに持っている好意が愛なのかどうか、はっきりとはわからないけれど、紬さんが私に愛情を持っているとは思えない。

口では甘い言葉を囁き、私を大切にしたいという気持ちを見せてくれるけれど、それはきっと彼の本心ではないはずだ。

恋愛経験が少ないとは言ってもゼロじゃないのだから、自分に向けられる言葉の意味を察することくらいはできる。

紬さんの私への思いは、好意であって愛ではないだろう。



< 68 / 350 >

この作品をシェア

pagetop