冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
強制的なお見合いで初めて会い、今日はまだ二回目の顔合わせなのに、彼が態度や言葉で示すほどの愛情をそのまま私に感じているとは思えない。
それに、この先それが本当の愛情に変わることを期待して結婚するほどの勇気もない。
私に関して言えば、紬さんへの想いは好意的なものに、というよりももっと強いものが生まれそうだけれど。
今ならそれを抑えて忘れることもできるし、政略結婚なうえに、愛のない夫婦生活なんて無理だ。
結婚はできないと、はっきりと言おう。
きゅっと唇をかみしめて俯くと、朝から悩みに悩んで選んだハイヒールが目に入った。
背の高い紬さんと並んでもバランスが悪くないように見えるだろうかと、何足もの靴を履いては脱ぎ鏡の前でうろうろしていた。
淡いピンクベージュで、高さが7センチのピンヒール。
つま先部分の高さも厚みを持たせてあるせいかそれほどの不安定さもなく歩くことができるお気に入りだ。
大切に手入れし、滅多に履かないものだけど、今日はこのパンプスの力を借りて自分を綺麗に見せたかった。
155センチしかない身長を少しでもバランスよくごまかせるように、気合いを入れて履いているなんて。
それだけで既に私は紬さんに気持ちを傾けている……それも、かなり。
だとしても、結婚に踏み切る勇気はない。