冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「ちゃんとくっついてろよ」
「うん、大丈夫」
人混みを上手に避けながら、私をかばうように歩いてくれる紬さんの横顔をちらりと見ると、その落ち着いた表情にやっぱり惹かれてしまう。
ハイヒールで必死でついて歩き、握られた手を縋るように握りしめながら、この先もずっと紬さんに守られていたいと感じた。
出会って以来、何度かこうして手を繋ぎ、そして何度か抱きしめられても尚、紬さんについて知ったことは少ないけれど。
紬さんの中にはやはり、私への恋心はないのだろうと思う。
女性の周囲を気にして守ったくれたり、優しい言葉をかけてくれるけれど、その慣れている様子からは「瑠依は特別」だというサインは読み取れない。
きっと、私じゃなくても、こうして手を繋いで歩いてくれるんだろうな。
そう思うと、やたら体がずんと重くなって、胸も痛い。
まるで片思いに嘆くセーラー服を着た女の子ようだな……。
とっくに制服は脱ぎ捨てて、何度か失恋も経験したというのに、私はちっとも成長していない。
「もう少しで着くから」
「あ、うん」
一人で勝手に考え落ち込んでいると、私とは逆に明るい声が落とされた。
「早くビールが飲みてえ」
「ふふっ私も」
「揚げ出し豆腐がうまいんだ」
「へえ。鶏の軟骨ってあるのかな」
「あるある。っていうか、葉月コーポレーションのお嬢様が鶏の軟骨って、意外だけど、瑠依にはなんだか合ってるな」
「どういう意味よ」