冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「ん?ビールに軟骨って、サラリーマンには最高の組み合わせだしさ」
「私だって、普通の会社員だから、軟骨くらい食べるし。ほっけと白いご飯が最後に出てくればそれだけでいいもん」
「お、ほっけもいいけど、いわしの塩焼きもうまいぞ」
「あ、まるごと食べたい」
「は?……ほんと、瑠依、かわいいな。うん、かわいい」
目を細め、にやりと笑った紬さんのからかい気味の口調に拗ねたふりで、空いている手で彼のお腹に一発お見舞い。
それほど力は入れていないのに、紬さんは大袈裟に「うっ」と唸った。
歩く速度を少し緩めて、体を丸めながら私を見つめる。
「本当にかわいいんだ。そう言って何が悪い?」
くくっと喉の奥を震わせ私の顔を覗き込むと、避ける間もなく唇が重ねられた。
繁華街のど真ん中。
すれ違う人たちが驚いた顔で見ながら通り過ぎていく。
中には指をさす人もいて、一気に体中が熱くなる……というのに、紬さんを見れば。
繋いでいた手を離して、私の腰を抱き寄せると
「本当にかわいくて仕方がない」
私の頭をくしゃりと撫でながら、こうして二人でいることが心から嬉しいとでもいうように満足げな表情を見せた。
この表情、何度か見たことがある。