冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
柔らかい視線で私を見つめながら二人の距離を縮め、体温を感じ合えるほどの親密な空気を作り出す。
もともと整っている容姿がその空気を甘いものに変えるなんて簡単で、私は何度も引き込まれそうになった。
ううん、既に引き込まれているのかもしれないけれど、私が紬さんに気持ちを傾け始めたせいで、気づきたくない事実もわかるようになった。
私を戸惑わせるような甘い言葉を言ったり、驚く私の気持ちを無視して抱きしめたり。
まるで私との恋愛を楽しんでいるような錯覚を与える瞬間、同時に見せられるのは、ふとした揺らぎ。
紬さんの甘い言葉は確かに私に向けられているし、抱きしめられているのも私だけど、紬さんの心は別のどこかに向けられているような気がしてならない。
初めて会った時には気づかなかったけれど、彼のことをもっと知りたいと思いながら過ごすうちに、そう気付いてしまった。
紬さんは、私と結婚したいとどうして思っているのか。
まさか、本気でそう思っているわけではないだろうけれど。
……そのことを受け入れるのはつらいし、心は痛いけれど、それならばやはり、紬さんと結婚するわけにはいかないから。
だから、今日もこうして会いに来た。
そのことを伝えるために。
「瑠依……?」
黙り込む私を、紬さんが心配そうに覗き込む。