冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「え?」
「愛して愛されて、幸せにならなきゃ結婚する意味なんてないでしょ?紬さんと結婚しても幸せになれるとは思わないもん」
「俺は……瑠依を幸せにするつもりだ」
「ううん、無理だよ」
結婚することをはっきりと拒む私に驚いた紬さんは、人混みの中再び立ち止まった。
眉を寄せ、引き締まった唇。
肩に置かれた腕にも力が込められた。
今日紬さんの会社で会ってからずっと、その顔に浮かんでいた余裕は消えている。
とはいっても、焦りが見え隠れする様子もやっぱり素敵だから、本当、むかつくな。
この見た目、結婚相手としては申し分ないんだけど……と、私の中に浮かんだ迷いに苦笑した。
「ねえ、紬さんは、どうして私と結婚しようと思ったの?」
「そりゃ、瑠依のことを気に入ったからだろ」
「うん。私も紬さんのことは気に入ったし、今は第一印象ほど嫌な人だとも思わない」
今日のお父さんとのやり取りを聞いていれば、投げやりに聞こえる言葉の中にも優しさが感じられるし、私を大切にしようとしてくれる様子も嘘じゃないと思う。
女性関係はどうだかわからないままだけど、悪い人だとは思えない。
「でもね。ずっと違和感があったんだ。紬さん、私が照れるような甘い言葉を言ったり突然抱きしめたり……キスだって。それって、私が好きだからってわけじゃないよね?」
「は?何言ってるんだよ。俺は瑠依が気に入って……」
「気に入ってるけど、愛してるわけじゃない。他に、好きな人がいる?」
「瑠依……」
力を失くした紬さんの手が、私の肩からするりと落ちた。