冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
それまで寄り添っていた私たちの体に隙間ができて、あっという間に足元がぐらりと揺れた。
支えられていた体、そして気持ちも、紬さんから遠ざかる。
ピンヒールで不安定な足に力をこめて、目の奥に溢れてくる涙がこぼれないよう息を止めた。
噛みしめた唇の痛みはきっと、今呟いた言葉への後悔だ。
何も言わなければ、気づかない振りをしていれば、紬さんと一緒にいられたのに。
結婚もできたはずなのに。
私が口にした言葉はそれを叶わぬものへと変えてしまった。
「泣くな……」
「あ、」
我慢できずに落ちる熱いもの。
頬をつたう涙を紬さんの指先がそっと拭ってくれる。
今まで強引に、遠慮もなく触れていたくせに、今になってどうして、おそるおそる……気遣うように触れるんだろう。
「瑠依が泣く必要は、ないんだ。それに、瑠依以外俺には好きな女なんていない」
小さく息を吐きながら、諦め混じりの声が聞こえた。
微かに首をかしげて私の反応をうかがっている。