冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
おじい様がどうして彼をすすめるのか、彼がどんな成り行きでこの場に連れてこられたのかもわからないけれど、それすら私にはどうでもいい事で、早くこのお見合いが終わって欲しいと、そう願うだけだ。
膝の上で組んだ自分の手を見つめ俯いていると、くすくすと笑う声が聞こえた。
「そこまであからさまに拒まなくてもいいんじゃない?俺だって今すぐ君と結婚したいって思ってるわけじゃないんだから」
その声にはっと視線を上げると、思わずため息が出そうなほど整っている顔があった。
「お見合いしたらすぐに結婚しなきゃならないってことはないんだ」
「は?」
目の前で苦笑している江坂さんというその男性は、低い声でそう言った。
お見合いに出向く条件として、当人同士だけで、と私がお願いしたせいで、今この場には私と江坂さんしかいない。
だからだろうか、私に対して気を遣う様子もなく表情を作るわけでもなく、江坂さんは大きくため息をついた。
「君のおじい様と俺のおばあ様。二人が結託してこの話をすすめているって聞いてる?」
「は、はあ……」
「何も聞いてないのか?」
「えっと、……聞いてないというか、聞いていても流していたというか……」
はじめから断るつもりのお見合いの経緯なんて、特に深く気にとめる事もなく今日に至るというか。
このお見合いを断ると決めているせいか、まったく状況がわかっていない。