冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「わかりました。彼女が大盛りなんだから、もちろん江坂くんも大盛りだよね」
「ああ。大盛り。で、俺はカニクリームコロッケ定食」
「はいはい。いつ来てもカニクリームかミートボール定食だもんね。本当、大学の時から進歩がないっていうか子供っていうか。ま、いいけどさ、変わってないから安心する」
「うるせえんだよ。ここのは格別うまくて食べたくなるんだから仕方ないだろ?」
「ふふっ。お母さんにそう言っておくね。茅人もそろそろ帰ってくるから店に顔を出すようにメールでも入れようかな。……こんなかわいい彼女を連れてくるなんて一大事、黙っておけないし」
からかうような声。
紬さんとはかなり親しいように見える。
けれど、色恋のようなものは感じられなくて、落ち着いていられるけれど。
日里さんは、二人のやりとりを見ていた私に小さく笑い掛けると。
「瑠依さん……えっと。紬はその……ちゃんと大切にしてくれる? それに……大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫って……? えっと、それってどういう?」
日里さんが口にした言葉が理解できなくて聞き返すと、日里さんは唇をぎゅっと結び困ったように眉を寄せた。
「えっと、瑠依さんのおじい様の会社……」
「日里、余計なことばかり言わずに仕事しろよ」
微かに震える日里さんの声を遮るように、紬さんの低い声が響いた。