冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「悪くない悪くない。紬様に何を言っても仕方がないって、よーくわかってます。
だけど、瑠依さんはちゃんと言いたい事は言った方がいいからね? がつんと」
「日里には関係ないだろ? 俺と瑠依はちゃんと幸せな夫婦になるから黙ってろ。
とにかく、早くカニクリーム」
「……相変わらず俺様だね。……えっと……本当にこんな男でいいの?」
突然、日里さん、が真剣な顔でそう尋ねてきた。
その傍らでは、紬さんがあからさまにむっとした顔を見せているけれど、何も言わず私の返事を待っている。
こんな男でいいの? と言われても、私は紬さんとの結婚を断ろうとしているんだけど。
どこか期待に満ちた思いを瞳に浮かべている日里さんにそう言っていいものか、躊躇してしまう。
まさか二人にこれまで何かがあったとは思えないけれど、このなんでも言い合える様子を目の当たりにすると、もしや、なんて思ってしまう。
すると、そんな考えを見透かすように日里さんが苦笑した。
「私と江坂くんにはなーんにもないから。私が旦那に一目ぼれして、手に入れようと画策している時に彼の隣にいつもいた邪魔な男なの。
江坂くんは私のっていうよりも旦那の友達っていうのが正確」
「は、はあ……」
「ぺらぺらうるさいんだよ。俺たち以外にもお客さんはいるんだから、さっさと働けよ。
お母さんだって包丁持って睨んでるぞ」
「うそ、あ、やばっ」
紬さんと日里さんの視線をたどると、さっきまでキャベツやキュウリを綺麗に刻んでいた女性が包丁を片手に睨んでいた。