冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
手を繋ぎ、早足に歩きながらそんな会話を続ける私達。
声を抑えているとはいっても、感情的なやり取りに次第に声も大きくなる。
すれ違う人達が振り返ることに気付いてはいるものの、言葉が止まらない。
予想外のことばかりを紬さんに言われて、そのどれもが信じられなくて。
「惚れた女なんて、いっぱいいるくせに……」
俯きながら、そう呟いた。
これだけ整った見た目の男だから、女性とのあれやこれやが多かっただろうことは簡単に想像できる。
お見合い当日に飛び込んできた理美さんだって私と紬さんの結婚を阻止しようと必死だった。
彼女のなりふり構わない様子を見せられた時、紬さんが私一人を愛してくれることをあきらめた。
どうひいき目に見ても、私よりも理美さんの方が女性としての魅力を備えているのは確かだ。
自分をよくわかっているメイクや、男性の目を惹きつける豊満な体。
そのどれもが私にはない。
特定の女を作らずとも女には困らなかったに違いない紬さんが、どうして私に惚れる?
そんな事、信じられるわけがない。
お見合いで出会ったばかりの私に惚れたなんて、あり得なさ過ぎる。
きっと、私以外にも惚れた女はたくさんいたに違いない。