冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




「私は……私一人を愛して、惚れてくれた人としか結婚しません」

歩くスピードを少し落として、しっかりと紬さんの目を見つめながら、そう言った。

私一人を愛して欲しい、という願いはあきらめられないし、できれば紬さんに私一人を愛して欲しいと。

そう願っている自分に気づきながらも、結婚を拒む言葉を口にした。

まだ不確かだとはいえ、紬さんを好きだという気持ちが自分の中で大きくなっていけば、いずれ紬さんにも私と同じ思いを求めてしまう。

求めた後に、同じだけの愛情を返してもらえないのはつらいだろうし、きっと私は壊れてしまうから。

「結婚は、できない」

同じ言葉を繰り返す私に、紬さんは傷ついた表情を見せ、繋いだ手にぐっと力を込めた。

そして、何かを決心したように口を開いた。

「瑠依、俺は」

立ち止まり、私の顔を覗き込むように体を寄せた紬さんを、切ない想いで見つめ返していると。

「瑠依ちゃん、大丈夫だよ、こいつは瑠依ちゃん一筋で、でれでれメロメロ甘ーい未来を描いている男だから。心配しなくても、というより瑠依ちゃん以外を愛せない手のかかる男なんだ」

突然聞こえた声にはっと視線を上げると、私たちの前に一人の男性が立っていた。



< 93 / 350 >

この作品をシェア

pagetop