冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
そして今日は、ようやく休みを合わせる事ができた紬さんと一緒に結婚式の衣装を選びに来ている。
式を挙げるホテルに着いて早々、あらゆるドレスを見ては目を輝かせる紬さんの生き生きとした表情に、文句ばかりが口を突いて出る。
「ちょっと、勝手に私のドレスを決めないでよ」
「は?俺は、自分の女にはこのくらい派手なドレスを着せたいんだよ」
「自分の女って何度も言ってるけど、私は物じゃない。瑠依っていう名前がちゃんとあるんだから」
「はいはい。俺の瑠依にはレースがふんだんについている、ど派手なドレスがいいんだよ。
どうせ一生に一度の事なんだから楽しまなきゃな」
「一生に一度の事なら、私はもっとちゃんと選びたい。
ドレスだけじゃない、どうして私の意思は無視されるの?私の人生を、みんなはどう考えてるの?」
ホテルのウェディングサロンで仁王立ちのまま叫ぶ私を、苦笑交じりにちらりと見た紬さんは、そんな私の様子に驚いているホテルの担当さんに頭を下げる。
「すみません。突然決まった結婚なんで、彼女はひどいマリッジブルーでいつも不安定なんですよ。ほら、おいで」
紬さんが選ぶウェディングドレスを幾つか試着してみるけれど、紬さんはなかなか一つに絞りきれない。
紬さんの指示に従って何度も試着室を出たり入ったりさせられていた私は、かなり疲れていた。
そしてようやく紬さんがこれこそ本命だ、と胸を張って選んだ、ど派手でごてごてしたドレスによって体は更に疲労感でいっぱい。
既に思考回路も壊れかけていたせいか、紬さんが優しく私を手招く様子を見て、何も考えず、引き寄せられるように彼の側へと足は動いていた。