やさしい手のひら・後編
点滴がなくなり、看護士さんが新しい点滴に取り替えている

その姿を私は黙って見ていた

なんの薬なんだろう・・・

これを凌の体に入れれば凌は生き返るの?

そんな思いで、看護士さんの手を見ていた

動きもしない凌。痛いとも叫んでくれない

凌の痛々しい体を見ると目を背けたくなる

どんなに痛かっただろう

どんな思いで車とぶつかったのだろう

聞きたいことがたくさんあるのに今の凌には何も聞けない

「私・・・」

由里の横にいた凌の彼女が口を開いた

「私、知っていたんです」

「え?」

由里が不思議そうに彼女を見る

「凌くんが私じゃない違う人を好きだということを・・・」

「・・・」

由里は何も言わない。でもすぐに声を出し

「私も知っていたよ」

由里は彼女に言った

「凌は昔から亜美しか見ていないことも、今でも亜美を好きなことも。私は全部知っていた」

今でもって・・・そんな・・・

飲みに行った時、それらしいことを由里は言っていたけど、もうあれから何ヶ月も立っているし、彼女のことちゃんと見ているんだ・・・と私は思っていたのに・・・

「凌くんが亜美さんを思っていたのを知っていました。それでも付き合いたくて、それを承知の上、私と凌くんは付き合いました」

「・・・」

私は何も言えないでただ凌の顔を見ている

「凌くんに、この先亜美以上好きになる奴はいない。そうはっきり言われました」

凌・・・


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