やさしい手のひら・後編
ここに来てから何時間経ったのだろう

機械の音だけがするこの病室で沈黙が続く

誰一人、口を開かない

そしてみんなずっと凌を見ている

動いてほしい、しゃべってほしい。それを望むだけ・・・

そんな凌はまったく動かず、息を吸うたび酸素マスクが曇る

私は凌の右手をおでこに当て、生きているという凌の体温を噛み締めていた

「凌・・・動いて・・・」

その時だった

ピクッ

「凌?」

握っていた右手がほんの少しだけ、私の手を握り返した

「嘘・・・凌が今、私の手を・・」

みんな立ち上がり凌に近付く

でも凌の表情は変わらずでいる

「でも手が・・・動いたの!」

「お前疲れてるんだよ」

新くんが私に言った

「ほんとに・・・ほんとに・・・動いたの」

でも誰も信じてくれず・・・

これは私の気のせいだというの?

今、動いたのに・・・

ピクッ

「ほら、やっぱり動いてる」

私の間違いじゃない

「亜・・・美・・・」

かすれた声の凌が私を呼んでいた



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