やさしい手のひら・後編
「はい。お菓子買ってきたよ」

凌に渡すと

「おお」

そう言って袋を開けている

そんな姿を私は椅子に座って見ていた

「食べる?」

「うん」

「あげない」

「もうー」

そんなつまらない会話で笑ってくれている凌がいる

やっぱり凌は笑っている方がかっこいい

幼い頃の笑顔が蘇る

「懐かしいね」

「何が?」

「うん。なんか、小学校の頃を思い出すよ」

いたずら好きでいつも真っ黒になって外を走り回っていたよね

走り回って・・・

走っている凌のことを思い出すと、胸が苦しくなる

私は泣きそうになるのを喉の奥で止めていた

「初めて一緒に海に行った時、俺、すんげぇ緊張したんだよな」

「・・・」

「そして帰り手、繋いで帰ったよな」

「うん」

「それがまた緊張してよ」

「うん」

「あの日のことは俺の一番の思い出なんだ」

そう言って凌はクシャッと笑った

その笑い顔に胸がギュッと痛くなり・・・胸が熱くなる

私もあの日のことは憶えている

ドキドキして嬉しくて、嬉しくて、ずっと好きだった凌と思いが通じて泣いてばかりいた

そんな思い出も今は過去になってしまって、私達は大人になってしまった

あの頃は早く大人になりたかったのに、今はあの頃に戻りたいと思う

もうあの頃には戻れないのに・・・


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