やさしい手のひら・後編
「あら、お久しぶりね」

またあの甘い声で私に話し掛けてきた。ざまーみろとでも言いたそうな顔・・・

私の心臓が破裂しそうなぐらい激しい音を立てている

見たくなかった・・・

二人の交際が本当だということを目の前で叩きつけられた

早く着いて・・・

何十秒しか乗らないエレベーターがとても長く感じる

下を見ようとすると健太と佐原樹里の背中が見えて、もっと下を見ると手を繋いでいるのが見えた

私はそれを見たくなくて思いっきり目を閉じた

チンッ

一階に着き、健太達がエレベーターから出て行く

二人の笑い声が遠くになっていくのがわかる

「亜美・・・」

細い声で由里が私を呼ぶ

でも足がすくんで前へ出ることがきない

動きたいのに動けない

「亜美」

凌も私を呼んだ

そしてドアが閉まり掛けた時、凌が私の手を引いてエレベーターから出してくれた

私は瞬きを忘れたかのように目が開いたまま動けないでいた

頭の中に二人の姿が焼き付いている

ギュツと握り合った二人の手

どうして会ってしまったのか、どうして見てしまったのか、どうして隣にいるのが私じゃないのか・・・

ずっと考えている

でも・・・それは私と健太が別れた証拠

私・・・言わなきゃ

私は由里と凌を通り抜け健太を追い駆けた

健太がいる所まで無我夢中で走ったんだ

健太がタクシーに乗ろうとした所で私は

「健太ぁーー」

健太を呼び止めていた
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