やさしい手のひら・後編
看護士さんに押されて凌の乗った車椅子が進む

恥かしいのか乗りたくないのか、そっぽを向いている

きっと凌のことだからかっこ悪い・・・そんなことを思っているのだろう

リハビリ室に着き、凌と看護士さんは中へと入り、私はガラス張りの廊下から眺めていた

周りには若い人から年寄りまでたくさんの人がいて、みんな必死で体を動かしている

この中で凌は歩くことが出来るのか

正直、私にもわからない

自分の腕だけの力で車椅子から降り、見たこともない機械の上で足を動かそうとしている

「あ・・・」

左足がまったく動かず、自分の手で抱えながら足を乗せている

そんな姿に背を向けたくなる

体力が落ちているせいか何をするのもやっとで、イライラしているように見える

リハビリの先生が手を貸そうとしても断り、自分でなんでもしようとしている

焦らなくていいのに・・・

今からそんなに頑張ってもこの先まだまだリハビリは続くのに・・・

私はただ遠くから見守ることしかできなかった

2時間ほどでリハビリ室から出て来て、私はソファから立ち上がり、

「疲れた?」

「あぁ」

とても不機嫌で何も言わずにいる

「私が連れて行くので・・・」

車椅子を押そうとしていた看護士さんに言い、私が変って車椅子を押す

「天気いいから外に行ってみようか?」

「・・・」

何も言ってくれず・・・でも私は

「それとも部屋戻る?」

「疲れた」

「そうだね。久しぶりに体動かしたから疲れたよね。じゃあ部屋に戻るね」

来た時の廊下をまた通る

これ以上無理に話し掛けても、きっと何も答えてくれないよね・・・

私は何も言わず、そして凌も何も言わず、部屋に戻って行った



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