やさしい手のひら・後編
幼稚園が終わり、私は小走りで病院へ向かっていた

なかなか変わらない信号に苛立ちながら、目の前に見えている病院を真っ直ぐ見つめ、信号が変わった瞬間また小走りで走りだす

長い門を潜り抜け、由里がいるはずの玄関目がけ、とにかく走った

「そんな急がなくてもいいのに」

待っていた由里が額に汗を滲ませている私に言った

「だってあんな電話の切り方するから、気になって」

「ごめんね。亜美の目で見てもらいたくてさ」

「心臓ドキドキだよ」

私の心臓は今走ってきたことよりも、病院に着いたことで更に加速していた

「行こうか」

「うん」

私は頷き由里の後ろに付いて行く

二ヵ月ぶりに嗅ぐ、病院の独特な匂い

深呼吸すると肺いっぱいにこの匂いが吸い込まれていく

高鳴る胸の音を落ち着かせていると、もう凌の病室の前まで来ていた



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